『ヴィンランド・サガ』は、幸村誠による漫画を原作としたアニメ作品です。11世紀初頭の北ヨーロッパを舞台に、ヴァイキングの生き様と、一人の少年トルフィンの復讐を描きます。2019年にSEASON1が、2023年にSEASON2が放送されました。
物語は、ヴァイキングがヨーロッパ各地を荒らし回っていた時代から始まります。略奪と殺戮を繰り返すヴァイキングの中で、トルフィンは父トールズをアシェラッドという男に殺されます。父の仇を討つため、トルフィンはアシェラッドの一団に身を投じ、復讐の機会を伺う日々を送ります。この序盤の展開は、トルフィンの復讐心と、アシェラッドの策略が交錯し、物語の緊張感を高めています。
アニメでは、ヴァイキングの容赦ない戦いの描写が目を引きました。剣戟の迫力はもちろんのこと、戦場の悲惨さも克明に描かれ、単なる勧善懲悪の物語ではないことが示されます。また、背景美術の美しさも特筆すべき点です。特に、北欧の自然や風景は、緻密な描写によって見事に再現されており、視聴者を物語の世界へと引き込みます。放映当時、背景に山が描かれていることに対し「デンマークに山はない」という指摘が海外視聴者からあり、作者の幸村誠氏が「戒めのために描き直さない」とコメントしたことも、ちょっとした話題となりました。
父の背中と異なる道
トルフィンの父トールズは、かつて「ヨームの戦鬼」と呼ばれたほどの強者でしたが、戦いを捨て、平和な生活を送っていました。しかし、運命に翻弄され、再び戦場へと向かうことになります。トールズは、武力ではなく、不殺の誓いを貫き、「本当の戦士」とは何かを息子に示すのです。
トールズの死は、トルフィンに深い傷跡を残します。復讐に取り憑かれたトルフィンは、アシェラッドへの執念を燃やし続けます。しかし、ブリテン編でのクヌートとの出会いが、トルフィンの心境に変化をもたらします。クヌートは、最初は臆病な王子でしたが、ラグナルの死を通して成長し、王としての覚悟を決めていきます。クヌートの変化は、トルフィンに復讐以外の生き方があることを示唆します。
ブリテン編は、戦乱の世の中で生き抜く人々の姿を描きます。アシェラッドは、クヌートを利用し、自らの野望を叶えようとします。トルケルは、純粋に戦いを求め、その強さで周囲を圧倒します。アニメでは、これらのキャラクターの個性が際立ち、物語に深みを与えています。特に、アシェラッドの策略と、その裏に隠された悲しい過去は、視聴者の心を掴みました。アシェラッド役の内田直哉さんの演技も高く評価されたところです。
奴隷としての再生
アシェラッドの死後、トルフィンは復讐の目的を失い、奴隷に身を落とします。ケティル農場で、エイナルという農夫と出会い、農作業を通して心の平静を取り戻していきます。奴隷編は、それまでの戦いの描写とは異なり、静かで穏やかな時間が流れます。
この章では、トルフィンの内面の変化が丁寧に描かれます。復讐だけを考えて生きてきたトルフィンは、生きる意味を見失い、苦悩します。エイナルとの交流や、農作業を通して、トルフィンは徐々に人間性を取り戻していきます。
アニメでは、農場の風景や、農作業の様子が丁寧に描かれました。土の匂いや、作物が育つ様子が伝わってくるような描写は、視聴者に安らぎを与えました。この章は、それまでの激しい展開とは対照的であり、物語の緩急をつける役割を果たしています。ケティル役の手塚秀彰さんの温かみのある演技が、農場の雰囲気をより一層引き立てていました。
ヴィンランドへの航海
奴隷生活から解放されたトルフィンは、「争いのない平和な国」をヴィンランドに築くことを決意します。出資者を求めて旅に出たトルフィンは、レイフの義妹グズリーズと出会います。グズリーズは、外の世界への憧れを抱く活発な女性です。トルフィンとグズリーズは、ヴィンランドを目指して航海に出ます。
北海横断編は、新たなキャラクターの登場と、航海の描写が中心となります。ヒルドという狩人の女性は、過去にトルフィンに父を殺された過去を持ち、復讐を誓っています。トルフィンとヒルドの関係は、物語に緊張感をもたらします。また、ヨーム戦士団の内紛も描かれ、トルケルとフローキの対立が激化します。
アニメでは、航海の壮大さが描かれました。広大な海を舞台に、トルフィンたちは様々な困難に立ち向かいます。また、ヒルドの過去や、ヨーム戦士団の歴史も描かれ、物語の世界観がさらに広がりました。北海横断編は、ヴィンランド編への導入として、重要な役割を果たしています。
平和への祈り
ヴィンランドを目指すトルフィンたちの旅は、様々な出会いと別れを通して、トルフィンを成長させていきます。ヒルドとの和解、ヨーム戦士団との決着など、数々の出来事を乗り越えながら、トルフィンは「本当の戦士」とは何かを問い続けます。
アニメでは、トルフィンの内面の変化が丁寧に描かれます。復讐心から解放されたトルフィンは、暴力を否定し、平和を希求するようになります。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。過去の罪と向き合いながら、トルフィンは未来へと歩みを進めます。
『ヴィンランド・サガ』は、単なるヴァイキングの物語ではありません。暴力の連鎖、復讐の無意味さ、そして平和への祈りを描いた、普遍的なテーマを持つ作品です。アニメを通して、多くの視聴者がトルフィンの成長を見守り、そのメッセージを受け取ったことでしょう。公式ガイドブックが発売されたり、アイスランド大使館で上映会が行われたりと、アニメ放映を機に作品への注目が集まりました。この記事が、再び作品に触れるきっかけとなれば幸いです。
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