1992年の夏、スタジオジブリから公開された『紅の豚』。宮崎駿監督の長編アニメーション映画第6作目となる本作は、アドリア海の青い空を舞台に、一匹の豚の姿をした男と、彼を取り巻く人々の物語を描いた作品です。
豚になった男、ポルコ・ロッソ
主人公は、深紅の飛行艇を駆る賞金稼ぎ、ポルコ・ロッソ。彼は、かつてはイタリア空軍のエースパイロットとして名を馳せたマルコという名の男でした。しかし、ある出来事をきっかけに、彼は自らに魔法をかけ、豚の姿に変身してしまったのです。
ポルコは、戦争を嫌い、軍に戻ることを拒否し、アドリア海の小島で隠遁生活を送っています。彼は、空賊相手に賞金稼ぎをしながら、自由気ままな日々を過ごしていました。しかし、そんな彼の前に、アメリカ人の飛行艇乗り、カーチスが現れ、ポルコの運命は大きく動き始めます。
空を舞う、ロマンと冒険
物語は、ポルコとカーチスの対決を軸に展開していきます。ポルコは、カーチスとの空戦で撃墜され、愛機を大破させてしまいます。そこで彼は、ミラノの飛行艇製造会社「ピッコロ社」に修理を依頼することに。そこで出会ったのが、社長の孫娘で、飛行機設計技師のフィオでした。
フィオの才能と情熱に触発され、ポルコは愛機の再設計を彼女に託します。そして、フィオの設計によって生まれ変わった飛行艇で、ポルコは再び大空へと飛び立つのです。
魅力的な登場人物たち
本作には、ポルコやフィオ以外にも、魅力的な登場人物が数多く登場します。
- マダム・ジーナ: アドリア海のホテル経営者であり、歌姫でもあるジーナは、ポルコの幼馴染であり、彼に想いを寄せる女性です。
- ピッコロのおやじ: フィオの祖父で、ピッコロ社の社長。ポルコの昔馴染みでもあります。
- マンマユート・ボス: 空賊マンマユート団の首領。豪快で人情味あふれる人物です。
- フェラーリン: ポルコの元戦友で、現在はイタリア空軍の少佐。ポルコの空軍復帰を願っています。
個性豊かな登場人物たちが織りなす人間模様も、本作の魅力の一つと言えるでしょう。
時代を超えて愛される名作
『紅の豚』は、公開から30年以上経った今でも、多くの人々に愛される名作です。金曜ロードショーでの放送回数も多く、その度に高い視聴率を記録しています。
宮崎駿監督は、本作を「疲れて脳細胞が豆腐になった中年男のためのマンガ映画」と語っています。しかし、その魅力は、中年男性だけに留まりません。子供から大人まで、幅広い世代の人々が楽しめる作品です。
美しいアドリア海の風景、個性豊かな登場人物たち、そして、空を飛ぶことの素晴らしさ。
『紅の豚』は、私たちに、忘れかけていた夢と冒険、そして、人生の素晴らしさを思い出させてくれる、そんな作品なのです。
あの頃、映画館で見た風景
1992年当時、『紅の豚』は、アニメ映画としては異例の大ヒットを記録しました。前作『魔女の宅急便』に続き、興行収入の日本記録を更新したのです。
映画館は、連日多くの観客で賑わっていました。夏休みということもあり、子供連れの家族や、若いカップル、そして、当時「疲れて脳細胞が豆腐になった中年男」だったであろう大人たちなど、様々な人々が、スクリーンに映し出されるポルコの雄姿に魅了されていました。
また、本作は、史上初の機内上映作品としても話題になりました。日本航空国際便の機内で、一足先に『紅の豚』を鑑賞できた人々は、どんな気持ちでスクリーンを見つめていたのでしょうか。
映画館で流れる久石譲の音楽、そして、加藤登紀子の歌声。エンディングテーマ「時には昔の話を」が流れる中、劇場を後にする人々の顔には、どこか清々しい表情が浮かんでいたのを覚えています。
『紅の豚』は、単なるアニメ映画ではありません。それは、時代を超えて愛される、日本のアニメ史に残る名作であり、多くの人々の心に、忘れられない夏の思い出を刻んだ作品なのです。
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