1988年、昭和63年は、激動の時代でした。ベルリンの壁崩壊前夜、ソ連のペレストロイカ、そして日本ではバブル景気の幕開け。社会、経済、文化が大きく揺れ動く中で、人々の心を捉え、時代を象徴する様々な流行語が生まれました。今回は、そんな1988年を彩った流行語の中から、特に話題となった10個を選び、その背景や意味合いを掘り下げてご紹介します。当時の世相を反映する言葉たちを通して、時代を追体験してみましょう。
ペレストロイカ
ミハイル・ゴルバチョフ書記長が推進したソ連の改革政策「ペレストロイカ」。この言葉は、鉄のカーテンで覆われていたソ連の変化を世界に伝え、日本でも大きな注目を集めました。政治、経済の自由化、情報公開を目指すペレストロイカは、冷戦終結への大きな流れを作り出す原動力となりました。まさに世界史の転換期を象徴する言葉と言えるでしょう。
今宵はここまでに(いたしとうござりまする)
NHK大河ドラマ『武田信玄』で使われたこの言葉は、上品な言い回しが受け、広く流行しました。会議や宴会など、様々な場面で時間の終わりを告げる際に用いられ、ユーモラスな表現として親しまれました。時代劇言葉が日常に浸透する、面白い現象だったと言えるでしょう。
しょうゆ顔・ソース顔
男性の顔立ちを「しょうゆ顔」「ソース顔」と分類する表現も、この年に流行しました。あっさりとした顔立ちを「しょうゆ顔」、濃い顔立ちを「ソース顔」と表現し、女性の間で話題となりました。この言葉は、外見に対する興味の高まりを示すとともに、多様な美の価値観が生まれてきたことを示唆しているかもしれません。
ユンケルンバ ガンバルンバ
佐藤製薬の栄養ドリンク「ユンケル黄帝液」のCMで使われたキャッチコピーです。タレントのタモリがコミカルに歌い上げるこのフレーズは、多くの人の耳に残り、大流行しました。CMソングが流行語となる、当時の広告の影響力の強さを物語るエピソードです。
アグネス論争
歌手のアグネス・チャンが子連れで仕事をするスタイルを巡って巻き起こった論争です。「子連れ出勤」の是非が社会的な議論を呼び、働く女性の生き方や子育て環境など、現代にも通じるテーマが浮き彫りになりました。この論争は、女性の社会進出が進む中で、仕事と家庭の両立という課題が改めて認識された出来事と言えるでしょう。
ドライ戦争
ビール業界で繰り広げられた熾烈な販売競争を指す言葉です。アサヒビールが発売した「スーパードライ」の大ヒットをきっかけに、各社がドライビールを相次いで発売し、市場を席巻しました。この現象は、消費者の嗜好の変化と、企業間の競争が激化した時代を象徴しています。
シーマ(現象)
日産自動車が発売した高級車「シーマ」の大ヒットも、この年の話題となりました。高価格帯の車が飛ぶように売れる現象は、バブル景気の到来を象徴する出来事として捉えられました。消費者の間で高級志向が高まり、贅沢な消費が肯定される時代だったことが分かります。
5時から(男)
「5時から男は…」というキャッチコピーで始まるCMが流行し、仕事を終えた後の時間を楽しむ男性像が注目を集めました。バブル景気の中で、仕事だけでなくプライベートも充実させたいという人々の意識を反映していると言えるでしょう。
ハナモク
「花の金曜日」を略した言葉で、週末を前に浮き立つ気分を表しています。週休二日制が浸透し始め、週末の過ごし方が多様化する中で、この言葉は多くの人に共感を呼びました。
トマト銀行
山陽相互銀行が改称した「トマト銀行」は、そのユニークなネーミングで話題を集めました。銀行名にカタカナを使うという斬新な発想は、金融業界に新風を吹き込みました。
まとめ
1988年の流行語を通して、当時の社会、経済、文化の様子が見えてきたのではないでしょうか。ペレストロイカに代表される世界情勢の変化、バブル景気による消費の変化、そして女性の社会進出など、様々な要素が複雑に絡み合い、時代を形作っていたことが分かります。流行語は、単なる言葉の流行にとどまらず、その時代の人々の意識や価値観、社会の動きを映し出す鏡のような存在です。過去の流行語を振り返ることは、過去の時代を理解し、未来を考えるヒントを与えてくれるかもしれません。これらの言葉たちが、後年振り返った際に、当時の記憶を鮮やかに蘇らせるきっかけとなることを願います。時代を映す言葉の力、それはまさに万華鏡のようです。