近未来宇宙で繰り広げられる子供たちのサバイバル
2022年、磯光雄監督が『電脳コイル』以来約15年ぶりに手がけたオリジナルアニメ作品『地球外少年少女』は、Netflixでの全世界配信と劇場公開で注目を集めました。本作は、AI技術が高度に発達し、宇宙旅行が身近になった2045年を舞台に、宇宙に取り残された子供たちのサバイバルを描いています。
物語の舞台は、日本の商業宇宙ステーション「あんしん」。子供たちは予期せぬ事故に見舞われ、大人たちと離れ離れになってしまいます。通信手段も限られ、酸素供給も不安定になる中、彼らは持ち前の知恵と、わずかに残されたインターネット回線、そして低知能AIやドローンといったテクノロジーを駆使して生き延びようとします。
本作の魅力の一つは、磯監督が描く緻密な近未来の宇宙像です。手のひらにプリントできる次世代端末「スマート」、相棒となるドローン、インフレータブル構造の宇宙ステーションなど、未来的なガジェットやテクノロジーがリアルに描写されています。子供たちがSNSを駆使して情報を共有したり、ハッキングを試みたりする様子は、現代社会と地続きの未来を感じさせます。
当時、「電脳コイル」の磯監督の新作ということで、アニメファンの間では大きな期待が寄せられていました。特に、磯監督作品特有の緻密な世界観や、子供たちの等身大の描写がどのように描かれるのか、注目が集まっていました。
豪華クリエイター陣による映像表現
『地球外少年少女』は、磯光雄監督のもとに、豪華なクリエイター陣が集結したことでも話題となりました。キャラクターデザインと総作画監督を務めたのは、吉田健一。『交響詩篇エウレカセブン』シリーズなどで知られる吉田氏の描くキャラクターたちは、個性的で魅力的です。子供たちの表情や仕草は豊かに描かれ、彼らの感情や成長を丁寧に表現しています。
メインアニメーターには、井上俊之が参加。『AKIRA』や『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』など、数々の名作アニメーションに携わってきた井上氏の作画は、本作に圧倒的なクオリティをもたらしています。特に、宇宙空間での無重力描写や、メカニックの描写は圧巻です。
本作では、3DCGソフトウェアBlenderを積極的に活用した作画手法が採用されました。手描きの2Dアニメーションと3DCGを融合させることで、よりダイナミックで迫力のある映像表現が実現しています。このBlender作画は、当時、アニメ業界内外で注目を集め、今後のアニメ制作の可能性を示唆するものとして評価されました。
磯監督は、本作で、過去のアニメ作品にあった実写以上のリアリティを追求しようとしています。それは、単にリアルな描写をするだけでなく、アニメーションならではの表現力を活かし、観る人の心を揺さぶるような映像を作り出すということです。
「宇宙」と「AI」が問いかける現代社会へのメッセージ
『地球外少年少女』は、「宇宙」と「AI」という二つのテーマを軸に物語が展開します。宇宙を舞台に選んだ理由について、磯監督は、近年、日本のアニメで宇宙を舞台にした作品が少なくなっていること、そして2020年代が宇宙開発において重要な時期になると予想していたことを挙げています。
AIについては、近い将来、より身近な存在になると予想される一方で、まだ人々の間で明確なイメージが共有されていない段階であることから、アニメで描くのに適した題材だと考えたそうです。本作におけるAIは、人間と敵対する存在として描かれるのではなく、人間と共存していく可能性を持つ存在として描かれています。
物語の中で重要なキーワードとなるのが「フレーム」という概念です。これは、AIの思考の枠組みを意味すると同時に、人間の認識の枠組みをも示唆しています。物語の結末は、狭いフレームで捉えるか、広いフレームで捉えるかによって解釈が変わる多面的なものとなっています。
磯監督は、本作を通して、現代社会が過剰に安全を求め、リスクを冒すことを避ける傾向にあることへの問題提起を行っています。子供たちを通して、未来への可能性を信じ、挑戦することの大切さを伝えているのです。
子供たちの成長と絆を描く物語
『地球外少年少女』は、宇宙に取り残された子供たちが、困難に立ち向かいながら成長していく物語です。それぞれ異なる個性を持つ子供たちは、最初は反発し合いながらも、次第に協力し、絆を深めていきます。
主人公の相模登矢は、月に生まれた少年で、少しばかり厨二病的なところがあります。彼は、頭部に埋め込まれたAI「セブン」のインプラントに隠された秘密を解き明かそうとします。七瀬・Б・心葉は、登矢の幼なじみで、同じく月に生まれました。身体が弱く、医療用ドローン「メディ」と行動を共にしています。
筑波大洋は、地球から宇宙旅行に来た少年で、正義感が強い性格です。美笹美衣奈は、宇宙チューバーとして活動する少女で、SNSでのフォロワー数を気にしています。種子島博士は、美衣奈の弟で、宇宙に強い憧れを持っています。
彼らは、宇宙ステーションという閉鎖された空間で、様々な困難に直面します。酸素不足、通信途絶、そして未知の脅威。そんな中で、彼らは互いを支え合い、生き延びるために奮闘します。彼らの成長と絆は、本作の大きな見どころの一つです。
音楽と主題歌が彩る宇宙空間
『地球外少年少女』の音楽は、石塚玲依が担当しました。石塚氏は、物語の展開に合わせて、様々なジャンルの音楽を作曲しています。子供たちの日常を描くシーンでは軽快な音楽が、危機的な状況を描くシーンでは緊迫感のある音楽が流れます。宇宙空間の壮大さを表現するオーケストラ曲も印象的です。
主題歌「Oarana」は、Vincent Diamanteが作詞作曲し、春猿火が歌唱を担当しました。歌詞は造語で書かれており、独特の世界観を表現しています。この楽曲は、作品の雰囲気を盛り上げる重要な役割を果たしています。
本作は、Netflixでの配信と同時に、劇場でも公開されました。これは、大画面で本作の映像美を体験してもらいたいという制作陣の意向によるものでした。劇場で本作を観た人は、宇宙空間の迫力や、子供たちの表情の繊細さに、より深く感動したことでしょう。
『地球外少年少女』は、宇宙という壮大な舞台で、子供たちの成長と絆を描いた物語です。磯光雄監督をはじめとする豪華クリエイター陣によって作り上げられた映像は、観る人の心を捉えて離しません。この記録を通して、本作の魅力を改めて感じていただければ幸いです。
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