すずめの戸締まり

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物語の始まりと旅のきっかけ

物語は、宮崎県の静かな町で叔母の環と暮らす17歳の女子高生、岩戸鈴芽の日常から始まります。ある日、鈴芽は登校中に「扉を探している」という青年、宗像草太と出会います。彼の言葉に惹かれた鈴芽は、彼を追いかけて山中の廃墟へと向かいます。そこで彼女が見つけたのは、古びた白い扉でした。まるで時が止まったかのように、周囲の廃墟とは異質な存在感を放つ扉。鈴芽は不思議な力に導かれるように扉に手を伸ばし、開けてしまいます。

扉の向こうには、広い草原と、あらゆる時間が混ざり合ったような不思議な空が広がっていました。鈴芽はその光景に驚愕しますが、扉の世界に足を踏み入れることはできません。代わりに、足元にあった猫の形をした石を持ち上げます。すると石は白い猫の姿に変わり、逃げ出してしまいます。この猫こそ、後に「ダイジン」と呼ばれる神獣でした。この出会いが、鈴芽の運命を大きく変えることになります。

その日の午後、鈴芽は学校の窓から山の方で立ち上る煙を目撃します。それは彼女にしか見えない異様な光景でした。直後、緊急地震速報が鳴り響きます。揺れはすぐに収まったものの、鈴芽には煙が赤黒く変色し、空へと昇っていくのが見えました。いてもたってもいられなくなった鈴芽は、再び廃墟へと向かいます。そこで彼女が見たのは、必死に扉を閉めようとしている草太の姿でした。彼こそが、日本各地の扉を閉める「閉じ師」だったのです。

草太は鈴芽に警告しますが、煙のようなものの勢いに押されて吹き飛ばされてしまいます。鈴芽は彼を助けようと駆け寄りますが、地中から現れた金色の糸が煙に付着し、煙が倒れると同時に再び地震が起こります。落下してきた鉄骨から鈴芽を庇い、怪我を負いながらも草太は戸締まりを試みます。鈴芽も加勢し、二人はなんとか扉を閉じることに成功します。この出来事をきっかけに、鈴芽は草太と共に、日本各地の扉を閉める旅に出ることになるのです。当時、新海監督が過去作で描いてきた災害の描写とは異なり、本作では東日本大震災を直接的に扱っていることが話題になりました。

出会いと別れ、旅路での人々との交流

怪我をした草太を介抱するため、鈴芽は彼を自宅に連れて帰ります。そこで草太は、扉を閉めることで日本列島の下をうごめく「ミミズ」の暴走を防いでいることを鈴芽に説明します。自己紹介を済ませた後、再び白い猫、ダイジンが現れます。鈴芽がダイジンに「うちの子になる?」と話しかけると、ダイジンは人間の言葉で「うん」と答えます。しかし、直後に「鈴芽、優しい、好き」「お前は、邪魔」と草太に言い放ち、草太を鈴芽が幼い頃に使っていた三本足の椅子に変えてしまうのです。この急展開には、多くの観客が驚きました。

椅子に変えられた草太を追い、鈴芽はダイジンと共に旅に出ます。フェリーでの移動中、ダイジンは巡視船に飛び移り逃げてしまいます。愛媛に到着した二人は、ダイジンを探す中で、原付から落ちたみかんをキャッチしたことから、民宿で働く海部千果と出会います。千果の協力を得て、二人は中学校の廃墟にある扉を閉じます。その後も、ヒッチハイクで出会ったスナックのママ、二ノ宮ルミの助けを借りて神戸へ向かい、遊園地の廃墟で扉を閉めます。旅を通して、鈴芽は様々な人々との出会いと別れを経験し、成長していきます。各地の風景描写の美しさは、新海作品ならではの見どころの一つでした。

東京での戦いと草太の犠牲

東京に到着した鈴芽と草太は、草太のアパートでミミズに関する文献を読み漁ります。そこで草太の友人、芹澤朋也と出会います。しかし、その時小さな揺れが起こり、鈴芽は近くで動くミミズを目撃します。二人は急いで扉の元へ向かいますが、そこにはダイジンの姿もありました。二人はダイジンを追い、扉が地下にあることを知りますが、その時再び大きな揺れが起こり、東の要石も抜けてしまったことに気づきます。

草太は一人でミミズに飛び乗り、その後を追うように鈴芽も飛び乗ります。二人は東京上空に上昇し、ミミズは東京の上空を覆ってしまいます。ダイジンと対峙した二人は、ダイジンを説得しようとしますが、ダイジンは草太に「要石はお前だ」と告げます。草太は次第に凍りつき、要石となってしまうのです。この展開は、観客に大きな衝撃を与えました。

要石となった草太を見て、鈴芽は涙を流しますが、ミミズが地面に向かって落下し始めたため、要石となった草太をミミズに突き刺すしかありません。鈴芽は悲しみを押し殺し、草太をミミズに突き刺します。ミミズは爆散し、鈴芽は落下しますが、ダイジンが彼女を守ります。地下で鈴芽は、常世でミミズに刺さっている草太を目撃しますが、常世に入ることはできません。ダイジンは鈴芽に寄り添いますが、彼女はダイジンを拒絶します。ダイジンは痩せ細り、どこかへ去って行きます。

常世への旅と幼い自分との再会

後ろ戸を閉め、地上に出た鈴芽は、草太の祖父であり、閉じ師の師匠でもある宗像羊朗が入院している病院へ行き、常世へ入る方法を尋ねます。草太を助けに行くことを決意した鈴芽は、草太の部屋で身支度をして出発します。御茶ノ水駅前で芹澤に声をかけられ、そこに鈴芽を迎えに来た環とも鉢合わせます。さらに、ダイジンも現れ、一同は東京を発ちます。

道の駅で環と口論になった鈴芽は、ダイジンと共に巨大な黒い猫、「サダイジン」に気づきます。サダイジンはダイジンを咥えてしまいますが、一同はサダイジンを乗せて鈴芽の実家へと向かいます。実家の跡地で、鈴芽は幼い頃に埋めた缶を見つけます。中には日記帳が入っており、3月11日以降のページは黒く塗りつぶされていましたが、最後のページには夢で見た光景と、かつての彼女を常世へ導いた扉が描かれていました。

鈴芽は扉を探し、ダイジンに導かれて錆びた扉を見つけます。ダイジンがこれまで後ろ戸のある場所に案内していたことに気づいた鈴芽は、ダイジンに感謝を伝えます。元気を取り戻したダイジンとサダイジンと共に、鈴芽は常世へ向かいます。常世で鈴芽は要石と化した草太を見つけ、ダイジンと力を合わせて彼を引き抜きます。草太と再会を果たしますが、ダイジンは力尽き、要石へと姿を変えます。

未来への扉と再会

常世で、鈴芽は幼い自分と出会います。母親を探す幼い自分に、鈴芽はかつて夢で見た白い服の姿で現れ、諭します。「私は、鈴芽の、明日」と告げ、三本足の椅子を託します。幼い鈴芽が扉から出ようと振り返ると、丘には鈴芽と草太の姿がありました。全てが終わり、二人は常世から帰還し、鈴芽は扉を閉めます。

その後、草太と別れた鈴芽は、環たちと旅の道を辿り、帰路につきます。数か月後の2月の朝、鈴芽は登校中に、かつて草太とすれ違った通学路で彼と再会します。鈴芽は「おかえり」と微笑みかけるのでした。このラストシーンは、多くの観客に感動を与えました。

この物語は、震災の記憶、喪失と再生、そして未来への希望を描いています。鈴芽の旅を通して、私たちは過去と向き合い、未来へと進む勇気を与えられるのです。公開当時、RADWIMPSに加え陣内一真が音楽に参加したことで、音楽面でも大きな話題を呼びました。映画館で聴く音楽と映像の融合は、格別な体験だったという声も多く聞かれました。

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