『ルックバック』は、小学4年生の藤野という少女の物語です。彼女は学年新聞に4コマ漫画を連載し、クラスメートや家族から絶賛されていました。ある日、担任の先生から、不登校の同級生・京本の漫画を掲載するため、藤野の連載枠を1つ譲ってほしいと頼まれます。
藤野は京本を見下していましたが、彼女の画力を見て衝撃を受けます。京本の漫画は周囲から高く評価され、藤野の絵は「普通」と評されてしまうのです。この出来事が藤野の心に火をつけ、彼女は本格的に絵の練習を始めます。友人や家族との時間を犠牲にするほど、彼女は漫画に打ち込みました。しかし、どんなに努力しても京本の才能には届かず、藤野は6年生の途中で連載を辞め、ペンを折ってしまうのでした。
小学校の卒業式の日、藤野は先生から京本に卒業証書を届けるように頼まれます。そこで二人は初めて対面し、京本が藤野の漫画のファンだったことを知ります。この出会いをきっかけに、藤野は再び漫画を描き始め、京本にネームを読んでもらうようになります。そして、京本が作画に加わり、二人は「藤野キョウ」というペンネームで漫画賞を目指して共同制作を始めることになります。
13歳で応募した作品が準入選となり、17歳までに7本の読み切りを掲載するなど、アマチュア漫画家として成功を収めます。しかし、高校卒業を機に二人の進路は分かれます。京本は山形市の美術大学へ進学し、藤野は漫画雑誌で連載を開始してプロの漫画家になる道を選びました。
悲劇とifの世界 – 京本を襲った運命、そしてもう一つの可能性
順調に連載を続け、アニメ化もされるほどの人気漫画家となった藤野。しかし、ある日、彼女のもとに衝撃的なニュースが飛び込んできます。
2016年1月10日、京本が通う美術大学に精神的に不安定な男が侵入し、12人の学生を殺害する事件が発生しました。京本はその最初の犠牲者となってしまったのです。
「京本を死なせてしまったのは、外の世界に導いた自分自身なのではないか」。藤野は深い苦悩に苛まれます。
物語はここで分岐します。1つは「京本が死亡した現実の世界」、そしてもう1つは「小学生時代に漫画をやめた藤野が、藤野と出会わずに不登校を脱して美術大学へ進学した京本を凶行から救い、再び漫画を描き始める」というifの世界です。
別の過程で再会を果たした二人の姿が描かれた後、視点は元の世界の藤野に戻り、彼女が漫画を描いている後ろ姿で物語は幕を閉じます。
藤本タツキワールド全開 – 独特の作風と表現技法
『ルックバック』は、作者・藤本タツキさんの特徴的な作風が存分に発揮された作品です。
まず目を引くのは、独特のテンポで展開されるストーリーと、印象的なコマ割り、そして表情豊かなキャラクターたちでしょう。藤本タツキさんならではの、予測不能な展開と、それでいてどこか懐かしさを感じさせる独特の世界観に引き込まれます。
また、作中には映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『ラ・ラ・ランド』、『インターステラー』などを彷彿とさせるシーンが登場します。これらのオマージュ要素を発見するのも、作品を楽しむ上でのポイントの一つと言えるかもしれません。
社会現象を巻き起こした衝撃 – 当時の反響と議論を振り返る
『ルックバック』は、公開されるやいなやTwitterのトレンドを席巻し、多くの著名人が感想をツイートするなど、社会現象を巻き起こしました。あの日、Twitterのタイムラインは『ルックバック』の話題で持ちきりだったのを覚えている人も多いのではないでしょうか。
一方で、作中における犯人の描写については、精神障害者への偏見を助長する可能性があるとして、議論が巻き起こりました。これは、作品が社会に与える影響力の大きさを改めて示す出来事だったと言えるでしょう。
アニメ映画化で再び話題に – 劇場版『ルックバック』の魅力
2024年には、劇場アニメとして公開されました。監督・脚本は押山清高さんが務め、アニメーション制作はスタジオドリアンが担当しました。
劇場版では、漫画版の魅力的なストーリーやキャラクター描写はそのままに、アニメーションならではの表現が加わり、より感動的な作品に仕上がっています。音楽はharuka nakamuraさんが担当し、繊細で美しい旋律が物語を彩ります。
公開当時、映画館で鑑賞した人も、Amazon Prime Videoで視聴した人もいるでしょう。あるいは、これから初めて見るという人もいるかもしれません。ぜひ、劇場版『ルックバック』を通して、あの頃の感動を再び味わってみてください。
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