物語の始まりとOZの世界
2009年夏、細田守監督が贈るオリジナル長編アニメーション映画『サマーウォーズ』は、インターネット上の仮想世界OZ(オズ)と現実世界を舞台に、高校生・小磯健二と陣内家の人々が繰り広げる壮大な物語です。
物語は、数学が得意な内気な高校生・健二が、憧れの先輩・篠原夏希から夏希の実家へのアルバイトに誘われるところから始まります。長野県上田市にある夏希の実家・陣内家は、戦国時代から続く名家で、夏希の曽祖母・栄の90歳の誕生日を祝うために親戚一同が集まっていました。健二は、ひょんなことから栄に夏希の婚約者として紹介されることになり、戸惑いながらも陣内家の人々と交流を深めていきます。
一方、OZは世界中の人々が集う巨大な仮想空間で、アバターを使ってショッピングやゲーム、行政手続きなど、現実世界とほぼ同じような活動ができます。そのOZで、謎の人工知能・ラブマシーンが暴走を始め、OZと密接に連携している現実世界のインフラにも影響が及び始めます。
健二は、OZの保守点検のアルバイトをしていたことから、ラブマシーンの事件に巻き込まれてしまいます。OZ内で容疑者として扱われることになった健二は、夏希や陣内家の人々と協力して、ラブマシーンの暴走を止めようと奮闘します。このOZという舞台設定は、当時普及し始めていたSNSと重ねて語られることが多く、インターネットが生活に深く浸透し始めた時代を象徴していると言えるでしょう。
陣内家の人々とそれぞれの戦い
陣内家は、個性豊かな人々が集まる大家族です。栄を筆頭に、自衛隊員、消防士、医者、漁師など、様々な職業の人がいます。それぞれが持つ能力を活かし、ラブマシーンとの戦いに挑む姿は、本作の見どころの一つです。
特に印象的なのは、栄の存在感です。彼女は、一族のまとめ役であり、ラブマシーンの事件による混乱を鎮めるために、政財界の人脈を駆使します。彼女の言葉や行動は、一族の心を一つにし、健二を勇気づけます。また、佳主馬がOZ内で操るアバター・キングカズマは、格闘ゲームの世界的チャンピオンとして、ラブマシーンと激しい戦いを繰り広げます。
陣内家の人々は、時には衝突しながらも、家族の絆を大切にし、困難に立ち向かっていきます。この大家族の描写は、当時の社会において、ある種の理想像として受け止められたのではないでしょうか。
ラブマシーンの脅威と健二の挑戦
ラブマシーンは、侘助が開発した人工知能プログラムです。学習能力が高く、OZのセキュリティを突破し、様々なアカウントを乗っ取っていきます。その影響は、現実世界のインフラにも及び、社会全体に大きな混乱を引き起こします。
健二は、数学の才能を活かし、ラブマシーンに立ち向かいます。当初は内気だった健二ですが、夏希や陣内家の人々との交流を通して、徐々に成長していきます。ラブマシーンとの戦いの中で、彼は自らの弱さと向き合い、勇気を振り絞って困難に挑んでいきます。
ラブマシーンのデザインは、仏教の神像をモチーフにしていると言われています。その巨大な姿は、インターネットの脅威を象徴しているのかもしれません。
花札勝負と世界中の協力
ラブマシーンとの最終決戦は、夏希が栄から教わった花札(こいこい)で行われます。この花札のシーンは、本作の中でも特に印象的なシーンの一つです。
夏希は、ラブマシーンとの勝負を通して、栄の教えを思い出し、自らの役割を果たすことを決意します。そして、世界中の人々からのアカウント提供を受け、ラブマシーンに勝利します。この世界中の協力という展開は、インターネットの可能性を示すとともに、人と人とのつながりの大切さを表現していると言えるでしょう。
この花札勝負のシーンは、当時のテレビCMでも印象的に使われており、多くの人の記憶に残っているのではないでしょうか。
物語の結末とその後
ラブマシーンの暴走は止まり、OZと現実世界の混乱は収束します。しかし、栄は心臓発作で亡くなってしまいます。栄の葬儀は、彼女の誕生日である8月1日に行われます。
物語の最後では、健二と夏希の関係も描かれます。夏希は、健二に好意を抱くようになり、二人の関係は新たな段階へと進んでいきます。
『サマーウォーズ』は、サイバーテロという現代的な題材を扱いながらも、家族の絆という普遍的なテーマを描いた作品です。OZという仮想世界の設定や、陣内家の人々の個性的なキャラクター、そして迫力のある映像など、見どころがたくさんあります。2009年という時代を象徴する作品として、今でも多くの人に愛されています。
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