夏の始まり、異星の少女との出会い
物語は、主人公・霧島海人が趣味の8mmカメラで夜景を撮影しているシーンから始まります。湖畔で撮影中、空に突如現れた青い光と衝撃波。この不可思議な体験が、海人の日常を一変させることになります。翌朝、目覚めた海人は、姉の七海からボリビアへの長期出張の話を聞き、そして学校では赤い髪の美少女・貴月イチカが転校生として現れます。このイチカこそが、前夜海人が目撃した光と深く関わる存在、遠い星から来た宇宙人なのです。
海人は友人たちと自主映画の制作を企画しており、成り行きからイチカもそのメンバーに加わることになります。古い友人である谷川柑菜や石垣哲朗、北原美桜に加え、イチカに興味を示す山乃檸檬も参加し、賑やかな映画制作が始まります。イチカは行くあてがないことから、七海の勧めで海人の家に居候することになり、奇妙な共同生活がスタートします。この共同生活の中で、海人はイチカに惹かれていくのです。
この頃、地方を舞台にしたアニメ作品が注目を集めており、『あの夏で待ってる』もその一つとして、舞台となった長野県小諸市の美しい風景が丁寧に描かれていることが話題になりました。聖地巡礼という言葉も一般的になりつつあり、放送後には実際に小諸市を訪れるファンも多くいました。
映画制作と深まる絆、それぞれの想い
夏休みに入り、映画撮影は本格的に始動します。当初は手探り状態だった撮影も、次第に軌道に乗り始め、平凡ながらも楽しい日々が過ぎていきます。しかし、イチカの登場によって、海人たちそれぞれの人間関係にも変化が生じ始めます。柑菜は海人に秘めた恋心を抱いており、イチカと海人の親密な様子を見て複雑な感情を抱きます。哲朗も柑菜に想いを寄せながら、海人と柑菜の関係を応援するという、切ない立場にいます。美桜は哲朗に惹かれつつも、彼の柑菜への想いを察しており、自分の気持ちを素直に表現できずにいます。
映画制作を通して、海人とイチカの距離は急速に縮まっていきます。海人はイチカに告白し、二人は恋人同士になります。しかし、イチカの正体が宇宙人であることは、二人の関係に大きな影を落とします。この辺りの展開は、まさに王道的なラブコメでありながら、SF的な要素が加わることで、独特の魅力を放っていました。
この作品は、黒田洋介さんと羽音たらくさんのコンビが再びタッグを組んだ作品としても注目されました。『おねがい☆ティーチャー』や『おねがい☆ツインズ』といった過去作との繋がりを意識した演出もあり、往年のファンを喜ばせました。
明かされる真実、迫られる別れ
物語中盤、イチカが地球に来た目的が明らかになります。彼女は記憶に残る見知らぬ原風景を探しており、その場所は彼女の故郷と深く関わっているのです。しかし、イチカの故郷の宇宙連邦は、地球のような未発達な文明との接触を禁じており、彼女は地球を離れなければならない状況に追い込まれます。
イチカを迎えに来た姉のエミカとの出会い、イチカが地球に残るためには、彼女の祖先が地球人と交流した証拠が必要であることが判明するなど、物語は急展開を迎えます。海人たちはイチカのために奔走し、彼女の祖先の痕跡を探すことになります。この過程で、彼らは様々な困難に直面しながらも、友情と愛情を深めていきます。
当時、オープニングテーマ「sign」を歌ったRayさんの歌声や、エンディングテーマ「ビードロ模様」を歌ったやなぎなぎさんの歌声も話題になりました。特にI’ve soundが音楽を担当していたこともあり、音楽面でも非常に評価の高い作品でした。
それぞれの道、そして再会への希望
イチカの祖先の痕跡を発見した海人たちでしたが、イチカは一旦宇宙に帰還することになります。別れの時、海人たちはそれぞれの道へと歩み始めます。檸檬はMIBに戻り、哲朗と美桜は恋人同士になり、柑菜も前を向いて歩き出します。しかし、彼らの心には、イチカと共に完成させることができなかった映画のことが、心残りのように残っていました。
数年後、海人たちが卒業した小諸学園では、彼らが制作した映画『あの夏で待ってる』が上映され、好評を博していました。映画のラストシーンは、イチカが再び地球を訪れ、海人たちと再会できたことを示唆するものでした。七海のボリビア土産の民族衣装を着たイチカと、りのんの姿が印象的です。
この作品は、地方を舞台にしたアニメ作品として、その後の作品にも影響を与えたと言えるでしょう。美しい風景描写や、等身大の高校生たちの恋愛模様が、多くの視聴者の心を捉えました。
特別編、そして永遠の夏
本編の後には、特別編(OVA)も制作されました。この特別編では、本編から2年後の夏休みが描かれています。高校3年生になった海人たちは、それぞれの進路を考えながら、かつての夏を懐かしんでいます。海人の家で哲朗が見つけた8mmフィルムをきっかけに、映画撮影前のテスト映像を振り返るシーンなどが描かれます。
この特別編では、本編では描かれなかったエピソードや、キャラクターたちのその後が描かれており、ファンにとっては嬉しいサプライズとなりました。オープニングテーマ「季節のシャッター」とエンディングテーマ「point at infinity」も、本編に引き続きRayさん、やなぎなぎさんが担当し、作品の世界観を彩りました。
『あの夏で待ってる』は、ひと夏の出会いと別れ、そして再会を描いた、心温まる物語です。小諸の美しい風景の中で繰り広げられる、等身大の高校生たちの恋愛模様は、多くの視聴者の共感を呼びました。この作品は、今でも多くの人々の心に残る、大切な作品の一つと言えるでしょう。
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