TARI TARI

2024年12月29日

江ノ島の風と歌声、青春のハーモニー

『TARI TARI』は、P.A.WORKSが制作し、2012年夏に放送されたオリジナルアニメ作品です。神奈川県藤沢市、鎌倉市、特に江ノ島を舞台に、歌うことを諦めない少女たちの青春を描きました。本作は、『true tears』、『花咲くいろは』に続くP.A.WORKSの青春三部作の一つとして位置づけられ、後者と多くのスタッフが共通していたことも話題となりました。江ノ電沿線を舞台にした作品は、放送当時、多くのファンが聖地巡礼に訪れ、江ノ島が賑わいを見せたことも記憶に新しいところです。

物語の中心人物は、歌うことが大好きな宮本来夏です。彼女は、過去の発表会での失敗から声楽部で歌う機会を失い、自ら合唱部を作ることを決意します。友人の沖田紗羽や、かつて音楽科にいた坂井和奏らを誘い、部員集めに奔走します。当初はなかなか部員が集まらず、廃部の危機に瀕するも、バドミントン部の田中大智とウィーン（前田敦博）が加わることで、合唱部とバドミントン部が合体した「合唱時々バドミントン部」が誕生します。このユニークな部活動名も、当時のファンの間ではよく知られていました。

物語は、彼女たちが文化祭での発表を目指し、様々な困難に立ち向かいながら、友情を深めていく様子を描いています。音楽、友情、そして少しの恋愛模様が織り交ぜられた、まさに青春を描いた作品と言えるでしょう。各キャラクターが抱える悩みや葛藤も丁寧に描かれており、視聴者の共感を呼びました。特に、和奏が母親の死という過去と向き合い、再び歌と向き合っていく姿は、物語の重要な軸の一つとなっています。

歌声が繋ぐ、それぞれの想い

本作の大きな魅力の一つは、何と言っても音楽です。浜口史郎が手掛けた劇中音楽は、作品の世界観を彩り、登場人物たちの心情を豊かに表現しています。特に、劇中で重要な役割を果たす合唱曲「心の旋律」は、作詞をriyaが担当し、美しいメロディーと心に響く歌詞が多くの視聴者の心を捉えました。この曲は、放送後、実際に合唱曲として楽譜が発売され、合唱コンクールなどで歌われることもあったそうです。これは、アニメ作品の楽曲としては異例の出来事と言えるでしょう。

また、オープニングテーマ「Dreamer」を歌うAiRIの力強い歌声や、エンディングテーマ「潮風のハーモニー」の爽やかなメロディーも、作品の魅力を引き立てています。劇中には、コンドルクインズという往年のグループが登場し、「Amigo! Amigo!」という楽曲を披露するシーンもあります。これらの楽曲は、作品を彩る重要な要素であり、視聴者の記憶に深く刻まれています。

さらに、音楽制作には、全日本合唱コンクール全国大会で金賞の常連校である幕張総合高等学校合唱部が参加しており、本格的な合唱シーンを表現することに貢献しています。音楽A&Rを担当したランティスの吉江輝成が、明治大学グリークラブの出身であったことも、合唱シーンのリアリティを高める要因の一つだったかもしれません。

個性豊かな仲間たちとの日々

物語を彩るキャラクターたちも魅力的です。主人公の来夏は、明るく前向きな性格で、周りを巻き込みながら夢に向かって突き進みます。紗羽は、面倒見の良いお姉さんタイプで、来夏を支える存在です。和奏は、過去のトラウマを抱えながらも、徐々に心を開いていきます。大智は、バドミントンに情熱を燃やす一方で、不器用な一面も持ち合わせています。ウィーンは、日本文化に戸惑いながらも、持ち前の明るさで周りを和ませます。

これらのキャラクターたちが織りなす人間関係は、物語の大きな見どころの一つです。衝突したり、支え合ったりしながら、互いに成長していく姿は、青春の輝きを描き出しています。特に、来夏と教頭との関係性は、物語を通して変化していく重要な要素です。教頭自身もかつて合唱部に所属していた経験があり、来夏に対して複雑な感情を抱いています。二人の関係がどのように変化していくのか、注目すべき点です。

江ノ島の風景が彩る物語

本作の舞台は、神奈川県藤沢市、鎌倉市、特に江ノ島です。江ノ電の風景や、江ノ島の街並み、海などが丁寧に描かれており、作品の世界観を豊かに表現しています。放送当時、多くのファンが実際に江ノ島を訪れ、作中に登場する場所を巡る「聖地巡礼」が盛り上がりました。江ノ電とのコラボレーション企画なども行われ、地域振興にも貢献しました。

江島神社や江の島弁天橋など、実在する場所が数多く登場し、作品のリアリティを高めています。これらの風景描写は、作品の魅力を語る上で欠かせない要素です。作中に登場する風景を見ることで、当時のことを懐かしく思い出す人もいるのではないでしょうか。